私は大学卒業後から約25年間、サラリーウーマンとして毎日ヒールパンプスを履いて生活していました。
就職したばかりの若い頃は、靴なんて消耗品だからデザインがそこそこで歩ければいいや、くらいに考えていました。しかし、朝から晩まで履き続けると帰宅時には先端が痛くなり辛くなります。ヒールがあるから先端に足が滑って押されるのは当然と思いこみ、ヒールパンプスしか履きたくないなら多少の苦痛は我慢しないと、と諦めつつ履いていました。
そんな私に、それが単なる思い込みだったと気づく瞬間がやってきます。
旅行で訪れたイタリアのフィレンツェにあるフェラガモ本店で、運命のヒールパンプスに出会います。
偶然購入したヒールパンプスは、それまで履いていたどのパンプスよりヒールが高いものでしたが、それまで感じていたヒールパンプス特有の苦痛がなく、比較的長時間履いていても気になりませんでした。もちろん、デザインは抜群です。
「ヒールパンプスの苦痛は高さだけが問題ではなかった。設計次第なんだ!」
ヒールパンプスに対する「こんなもの」という思い込みが吹き飛んでしまう出会いでした。しかし、だからといってフェラガモの靴なら何でもこのような履き心地というわけではありませんでした。デザインによって靴型が変わってしまうからです。このヒールパンプスとの出会いは偶然の奇跡でした。
自分自身が年齢を重ねるにつれて靴による苦痛や不快を感じやすくなったためか、既成靴の中で「歩きやすさ」と「デザイン」を両立する靴に出会える機会も減っていました。この先、ますます年齢を重ねた時に靴が無くて探し回ったり、靴がなくて楽しく外出できなくなったりしたら人生が台無しになってしまいます。
時同じくして、世の中は、従来の大量生産・消費時代から、多様化するニーズに注目する時代へと変化していました。
靴という究極の個人ニーズへの対応が求められるべきモノにこそ、従来の大量生産プロセスを見直して、需給のミスマッチをなくすための変革が必要だと考えました。そのためには、靴型から個々人に合わせて製作するフルオーダーメイドによる靴の製作が必要です。これは、人生100年時代を最後まで謳歌するにもとても重要ですが、従来の既成靴の生産プロセスのままでは不可能です。元々、工学部出身のリケジョのため、生産プロセス開発には興味津々です。
その他の要因も様々考慮した挙句、約25年かけて築いた環境問題に関するキャリアを捨てて靴型と靴の研究を始めることにしました。
なぜ、木型と靴の研究に取り組もうと思ったかというと、靴の設計方法は開発・改良の余地がまだまだ大いにあると思ったからです。試しに行ってみた複数の靴工房で靴づくりを体験してみたのですが、木型の設計方法は人によって千差万別で、いわゆるプロの木型師の木型でも私が満足する靴はできませんでした。「本当に満足できる靴を作りたいなら、自分で設計方法を見出すしかないんだ!」と思ったのです。靴という世の中にあふれている商品なのですが、実は自分が満足する靴は世の中になかったと理解したのです。
こうして、歩行と靴に関する勉強、靴の試作、長期装用に基づく研究を今日に至るまでコツコツと積み上げてきました。関連する専門書を読み漁り、整体師、理学療法士や外科医の方々に交じりバイオメカニクスや歩行動作の講座を受講したり、3Dで木型を設計・製作できるように3Dスキャナ、3Dソフトや3Dプリンターを使えるように勉強したりと、全てが全く新しいことの連続でした。初めは全く分からないことばかりでしたが、多くの方々に助けて頂いて、数年にわたり行った成果がQUAORIAの靴の設計ノウハウとして結実しました。
このように、QUAORIAの「歩きやすさ」と「デザイン」を両立する靴の設計・製作ノウハウは、私の個人的な悩みから生まれました。
もし、あなたが靴に悩んでいらっしゃるなら、是非この研究成果をご活用ください。
みなさまの笑顔で外出する機会が増えて、素晴らしい人生を歩まれるお手伝いができましたら、これ以上幸せなことはありません。
株式会社クァオリア
代表取締役社長
高橋香織